カンボジア不動産の投資環境:国境紛争と関税緩和を考慮した戦略
2026年に向けて、カンボジアの不動産投資環境はリスクと機会が同時に存在する局面に入っています。
結論から言えば、タイとの国境紛争による地政学リスクが不透明感を高める一方で、米国による関税引き下げなど外需面では追い風も吹いており、「ハイリスク・ハイポテンシャル」と言える状況です。
短期的には、国境周辺エリアや観光依存度の高い地域では不確実性が増しています。一方で、輸出産業やインフラが集積する都市部や港湾都市では、中長期的な需要拡大を前提とした選別投資が有望と考えられます。
本記事では、直近のニュースが不動産投資環境に与える影響を整理し、実務者が取るべき戦略を解説します。

投資環境の現状|なぜ「選別投資」が重要なのか
カンボジア経済は、衣料品などの輸出と観光に強く依存しています。そのため、紛争・関税・観光業界の動向が不動産市場に直結します。直近の状況を見ると、以下の3つの流れが見られます。
- タイとの国境紛争により、国境貿易や観光に混乱が生じている
- 米国がカンボジア製品への関税を19%に引き下げ、輸出産業には追い風となっている
- 銀行の定期預金金利が5〜6%台に上昇し、「不動産投資と預金」の利回り比較が厳しくなっている
したがって、エリア・用途・資金調達の条件を見極めた投資を行いましょう。そうでなければ、リスクに見合うリターンが得にくい環境になっています。
地政学リスク|国境紛争がカンボジア不動産に与える影響
■ タイ・カンボジア国境紛争と不動産への波及
2025年夏以降、タイとカンボジアの国境地帯では断続的な武力衝突が発生しました。避難や複数の国境検問所の閉鎖、国境貿易の中断が報じられました。
国境付近の住宅・商業施設・倉庫などは、以下のようなダメージを受けやすくなります。
- 物理的な損害リスク(砲撃・略奪・放棄)
- 賃貸需要の急減(住民の避難・商取引の停止)
- 保険料・ファイナンスコストの上昇
そのため、投資する場合は高いリスクプレミアムを前提とした判断が必要です。(参考:Vietnam Trade Promotion Agency)
■ 観光地とサービス不動産への影響
タイ経由の陸路観光は、カンボジアへの訪問者のかなりの割合を占めています。そのため、国境閉鎖や緊張の長期化は、シェムリアップなど主要観光地のホテル・ゲストハウス・商業施設の稼働率を押し下げます。実際、2025年前半のレポートでは、タイ国境の閉鎖が観光客数にマイナス影響を与えたと指摘されています(参考:Krungsri Research)。
観光依存度の高いエリアでは、変動の大きいキャッシュフローを前提に考えましょう。例えば、以下のような工夫が不可欠です。
- 自己資本比率を高める
- 複数用途(ホテル+サービスアパート+コワーキングなど)で稼働率を維持する
■ プノンペンや港湾都市への直接影響は限定的
一方で、プノンペン中心部や港湾都市シハヌークビルといった国境から離れた都市部では、現時点で直接の被害は報告されていません。不動産価格も短期的な調整はありつつ、事業・行政・金融の集積という構造的な強みは維持されています。インフラ整備が進むシハヌークビルは「将来のゲートウェイ都市」として注目されています。(参考:Knight Frank)
国境エリアと主要都市部を同列に評価しないことが、重要な視点です。
外需の追い風|関税引き下げがカンボジア不動産にもたらす影響
■ 米国の関税19%への引き下げと輸出産業の行方
2025年8月、米国はカンボジア製品に対する関税を36%から19%へ引き下げました。これにより、縫製・製靴・農産品など輸出産業の競争力回復が期待されています。また、雇用と投資にプラス効果が見込まれると分析されています。(参考:realestate.com.kh)
この動きは、不動産市場にも以下の形で波及します。
- 輸出工場の増設・新設 → 工業団地・倉庫・物流施設への需要増
- 雇用の増加 → 労働者向け住宅・賃貸アパートの需要増
- 外資企業の進出 → オフィス・サービスアパート・商業施設の需要増
■ 実例:地方都市での住宅・コンドミニアム需要
2025年上半期のレポートによると、シェムリアップでは土地付き住宅よりもコンドミニアムの販売が相対的に好調で、賃貸市場も緩やかな回復を見せています。また、コンドミニアムの想定利回りは6〜7%程度とされています。(参考:Knight Frank)
これは、輸出や観光の回復を背景に、中間層と外国人投資家の双方からコンパクトな都市型住宅への需要が続いていることを示します。特に、工場勤務者向けのシンプルなアパートや、観光とリモートワーク需要を取り込むサービスアパートは、今後も注目すべきです。
金融環境の変化|金利上昇と不動産利回りの比較
■ 預金金利5〜6%時代と不動産利回りの比較
カンボジアの銀行は、預金獲得のために比較的高い定期預金金利を提示しています。例えば、現地銀行の一つであるWoori Bankは、2025年12月9日から、個人向けクメール・リエル建て36カ月定期で年率約6%、米ドル建てで4%台後半の金利を提供すると発表しました(参考:realestate.com.kh)。
一方で、先述のように地方都市コンドミニアムの表面利回りは6〜7%程度とされており、「預金 vs 不動産」の利回り差はそれほど大きくありません。この環境では、以下の点に注意が必要です。
- レバレッジ(借入)を使い過ぎると、金利上昇局面でキャッシュフローが急速に悪化する
- 管理コストや空室リスクを考慮すると、ネット利回りは預金金利を下回る可能性がある
それでもなお、カンボジア不動産の投資環境には、
- インフレヘッジ:長期的な物価上昇に対して、賃料や資産価値の上昇で防御しやすい
- 通貨分散:ドル建て資産・リエル建て資産を組み合わせることで通貨リスクを分散できる
- 事業とのシナジー:現地でのオペレーション(店舗、オフィス、工場など)と組み合わせることで収益源を増やせる
といった預金にはない価値があります。事業と組み合わせた設計ができる投資家にとって、不動産は依然として有力な選択肢です。
実務者向け|カンボジア不動産 投資環境を踏まえた3つの戦略
■ 1. エリア選別:国境・観光依存型から、都市部・港湾・空港軸へ重心を移す
- 国境・タイ経路に依存する観光・商業物件は、紛争リスクを前提に慎重な投資判断を行う
- プノンペン中心部、シハヌークビル、主要空港近辺など、インフラと行政・ビジネス機能が集中するエリアに軸足を置く
- 製造業・物流企業の集積が見込まれるエリアでは、倉庫・工業団地・ワーカーズハウジングなど実需型投資を優先
■ 2. プロダクト選別:キャピタルゲイン頼みではなく、実需と賃料収入を重視
- 短期の値上がり期待だけで郊外の土地を取得する投機的投資は、現状の不透明感の中ではリスクが高い
- 長期契約のテナント(工場、物流会社、多国籍企業のオフィスなど)が見込める物件にフォーカス
- ホテル単体よりも、サービスアパート+オフィス+小売といった複合型のほうが景気変動に強い
■ 3. ファイナンス設計:低レバレッジと複数通貨で、変動に耐える構造をつくる
- 自己資本比率を高め、返済比率(年間返済額/家賃収入)を保守的に設定する
- ドル建て・リエル建て・自国通貨建てのバランスを取り、複数通貨でキャッシュフローを管理する
- ローカル銀行だけでなく、日系・外資系金融機関のローン・リースも比較検討する
まとめ|カンボジア不動産 投資環境を立体的に捉える
カンボジア不動産の投資環境は、以下の複数のベクトルがぶつかり合っています。難しい判断が求められますが、チャンスも大きい局面です。
重要なのは、以下の3点です。
- 国境エリアと主要都市部を分けてリスク評価する
- 投機ではなく、実需とキャッシュフローに基づいた投資を行う
- 地政学・関税・金利のニュースを継続的にモニタリングする
カンボジアのニュースの背後にある「貿易・観光・金融」が不動産キャッシュフローにどうつながるかを常に意識しましょう。そうすれば、カンボジア不動産の投資環境の変化をチャンスに変えやすくなるはずです。
