2026年 カンボジア不動産投資:EV工場稼働と沿岸部開発で考える戦略
2025年末時点でのカンボジア不動産投資の動きを整理すると、注目すべきポイントは大きく3つあります。
1つ目は、シアヌークビルでのEV工場稼働に代表される製造業の集積です。
2つ目は、沿岸部やトンレサップ地域で始まった、社会や環境に配慮した開発の動きです。
3つ目は、制度改革の進展と、国境問題などの地政学リスクが同時に存在している点です。
中でも、工業・物流関連の不動産や、環境配慮型インフラと結びつくプロジェクトは、2026年に向けて有望なテーマと考えられます。

EV工場稼働により変化する工業・住宅ニーズ
2025年12月の報道によると、中国の大手EVメーカーBYDが、シアヌークビル特別経済区(SEZ)で電気自動車の組立工場を稼働させました。
投資額は約3,200万ドル、敷地面積は約12ヘクタール。また、年間1万台以上の生産能力があると報告されています。さらに初期段階だけでも、約200人の雇用が見込まれています。
EV充電網の全国展開計画も含まれています。
SEZ(特別経済区)とは、税制優遇やインフラ整備が集中的に行われる工業団地のようなエリアです。このような製造拠点の稼働は、不動産需要を直接的に押し上げる点がポイントです。
■ EV工場稼働が生み出す不動産需要
EV工場の稼働により、以下のような不動産需要が生まれます。
- 工業系不動産
- 工場用地・倉庫・部品サプライヤー向けの小規模工業区画などの需要増
- 住宅系不動産
- 工場労働者や管理職向けの賃貸住宅・ボレイ(分譲タウンハウス)・サービスアパート需要
- 商業・サービス
- ショッピングモール、小売、飲食、医療施設など、生活インフラの集積
- 物流インフラ
- 港湾近接の倉庫群、コールドストレージ、内陸物流ハブ
BYDにとっては生産拠点の分散戦略ですが、カンボジア側から見ると、自動車関連産業が集まる土台ができ始めた段階と言えます。今後、関連企業の進出が進めば、工業・物流不動産の重要性はさらに高まるでしょう。
■ どのエリアのカンボジア不動産投資にチャンスがあるのか
EV工場の稼働を不動産投資の視点で整理すると、次のエリアが注目されます。
- シアヌークビルSEZ周辺
- 工業団地内外の追加用地、関連倉庫、簡易寮タイプのワーカー向け住居
- シアヌークビル市街地
- 中長期的には、管理職・駐在員向けの中級~上級コンドミニアムやサービスアパート
- プノンペン~シアヌークビル間の物流拠点
- 高速道路や幹線道路沿いの物流倉庫、トラックヤード
たとえば、すでにプノンペンの主要エリアでは1平米あたり約1,790米ドルという平均土地価格が報告されています。工業・物流系の投資家にとっては、比較的価格の低い沿岸部や内陸工業地帯へ分散する動きが合理的になっています。
シアヌークビルのような新興工業都市では、まず賃貸需要が先行する傾向があります。その後に分譲住宅や商業施設が追随するパターンが一般的です。短期的には賃貸利回り、長期的にはキャピタルゲインを狙う二段構えの戦略が有効です。
■ 投資家が今取るべきアクション
カンボジア不動産投資の具体的な行動に落とし込むなら、次のステップがおすすめです。
- 1. 工業・物流ゾーンのマッピング
- シアヌークビルSEZと既存工業団地、港湾、幹線道路を地図上で整理する
- 2. 現地パートナーの選定
- 工業・物流に強い仲介会社やデベロッパーをリストアップし、オンライン面談で情報収集
- 3. ESG視点の確認
- 環境負荷の高い用途(無計画な埋め立てなど)ではなく、EV・再エネ・グリーン物流と補完し合うプロジェクトを優先
- 4. 出口戦略の検討
- 10年保有なのか、3~5年でのEXITなのか、想定保有期間と出口先(次の投資家、ローカル企業など)を事前に描く
BYDのようなグローバル企業の進出は市場成長の裏付けになります。ただし、最終的な判断は個別物件の収益性と需要の現実性で行うことが重要です。
沿岸部・トンレサップ地域の「社会・環境コンセッション」
直近のニュースでは、沿岸部とトンレサップ湖周辺コミュニティを対象とした「Concessions for Economic and Social Policy」プランが発表されました。これは、教育・医療・廃棄物処理・水インフラ・農業支援などを包括的に改善することを目的としたものです。その資金源としてカーボンクレジットを活用する点が特徴です。
簡単に言えば、「CO₂削減など環境に良いプロジェクトに投資すると得られるクレジット(排出権)を売却し、その収益を地域インフラ整備に回す」仕組みです。これは、今後のカンボジア不動産投資に次のような影響を与える可能性があります。
- グリーンインフラ投資の増加
- 太陽光発電・省エネ建築・廃棄物発電などと結び付いた不動産開発
- コミュニティ重視の開発
- 学校・診療所・市場など、生活インフラと一体になった混合用途開発
- 投資家のESG評価向上
- 機関投資家やインパクト投資家が参加しやすい枠組み
短期的な値上がりを狙う投資ではなく、地域とともに価値を高めていく中長期型の不動産が中心になる点が特徴です。
■ カーボンクレジット型開発が不動産価値に与える影響
カーボンクレジットを活用した開発は、短期的な投機ではなく、中長期的なキャッシュフローと土地価値の底上げを狙う発想です。具体的なインパクトを整理すると、次の通りです。
- 廃棄物処理・リサイクル
- 郊外のインフラ系用地需要の増加。リサイクル施設と倉庫を組み合わせたロジスティクス開発が有望です。
- クリーンウォーター・衛生
- 安全な水供給エリアの住宅価値上昇。水処理設備を備えた分譲住宅・賃貸住宅が注目されます。
- 教育・医療への投資
- 学校・病院近接エリアの住宅需要増。スクールタウン型のボレイ開発、医療モールなどが考えられます。
沿岸部や湖周辺のプロジェクトでは、環境負荷の高いリゾート開発や乱開発のリスクもあります。しかし、今回のイニシアティブは明確に「インクルーシブ(包摂的)かつ環境責任重視」を掲げている点が重要です。投資家側も、地元コミュニティとの対話や環境社会影響アセスメント(ESIA)の内容を確認しながら案件を選別することが不可欠です。
国境問題と制度改革について
一方で、前向きなニュースと同時に、投資家が無視できないリスクも浮かび上がっています。
■ タイとの国境紛争が観光不動産に与える影響
2025年12月中旬にはタイ空軍のF-16によるシェムリアップ州付近への空爆が報じられました。アンコール遺跡から車で2時間圏内のエリアにも影響が及びました。その結果、50万人超の避難民が発生しました。アンコール遺跡の入場者数も6〜11月累計で前年比17%減という数字が示されています。
この種の地政学リスクは、とりわけ次のような不動産セクターに影響します。
- ホテル・ゲストハウス・サービスアパートなど観光依存度の高い物件
- 国境付近のカジノ・商業施設・ロジスティクス拠点
- 観光を前提としたコンドミニアム投資(短期賃貸・民泊モデルなど)
12月下旬時点でタイとカンボジアは停戦協議を進めています。長期的には緊張緩和に向かう可能性もあります。しかし、戦闘の影響を受けた州での新規投資は、慎重に見極める必要があります。治安と保険条件を確認することが重要です。
■ EU支援による制度改革と投資環境の改善余地
国境問題がリスクとなる一方で、約1,950万ユーロ(2,200万米ドル超)のEU支援が教育・水産・財政管理改革に向けて供与されることも報じられました。これは公共財政の透明性向上や税制・予算運営の近代化を通じて、民間投資にとってより予測可能なビジネス環境を整えることを狙ったものです。
不動産投資家にとっては、次のポイントが中長期的な追い風となり得ます。
- インフラ投資の優先順位が明確に。道路・上下水道・電力などの整備計画が読みやすくなる。
- 税務行政の透明性向上により、不動産税・登録税などの運用が安定。
- 公共サービスの改善により、住宅・商業エリアの居住魅力が高まる。
実際、2025年には不動産税の支払い期限が延長されるなど、納税環境を整える動きも見られました。これは、投資家にとって税務コンプライアンスを維持しやすい制度変更と言えます。
カンボジア不動産投資 2026年の戦略まとめ
ここまでのニュースと分析を踏まえて、2026年に向けた実践的な戦略を整理します。
■ 戦略1:EV・製造業クラスター隣接地を中長期で押さえる
BYD工場をはじめとする製造拠点周辺では、工業用地・物流施設・住宅ニーズが段階的に拡大する可能性があります。土地から入るのか、あるいは、すでに稼働中の倉庫や工場を取得するのか。自身のリスク許容度に応じてポジションを検討しましょう。
■ 戦略2:沿岸部・トンレサップ地域ではグリーン・インクルーシブ案件を選別
カーボンクレジットや社会インフラ改善と結びついた開発案件は、ESGを重視する投資家にとって魅力的です。ただし、同時に土地権利やコミュニティへの影響を丁寧に確認する必要があります。
■ 戦略3:観光・国境エリアはリスクプレミアムを十分に要求
シェムリアップや国境近接エリアの観光不動産は、平時には高いリターンを期待できます。しかし、紛争・観光需要変動リスクを織り込んだ利回り・価格設定が不可欠です。
■ 戦略4:制度改革の進展を踏まえた税務・ガバナンス対応
EU支援などを通じて税制・財政の透明性向上が進んでいます。現地専門家と連携しながら税務・コンプライアンス体制をアップデートしましょう。そうすることが、中長期での安定したリターンに直結します。
今後は短期の値動きよりも、これらの構造変化に沿う形でポートフォリオを構築していきましょう。中長期的なビジョンを見据えること。それが、カンボジア不動産投資で成果を上げるための鍵となるはずです。
(参考:APS Cambodia、Estatedia)
